【解説】統計検定準1級 2019年問題9

諸注意

  • 問題本文は公式サイトまたは公式問題集を参照してください
  • 統計検定2級に合格している方を想定して解説していきます

問題9-1

時刻を\(t \in [0, 100]\), 標準ブラウン運動を\(B_t\)で表すとき、1米ドルに対応する日本円の為替額は \(x_t=x_0+\sigma B_t\)に従う。ただし、\(x_0, \sigma\)は0よりも大きい定数とする。\(x_k\)の増分の二乗の平均が以下の式に従う時、\(\sigma\)の推定値を答えよ。

式1

\begin{align}
V=\frac{1}{100} \sum_{k=1}^{100}(x_k-x_{k-1})^2=0.001224
\end{align}

選択肢
① 0.019 ② 0.035 ③ 0.11 ④ 0.19 ⑤ 0.35

答え ② 0.035

解説

前提知識

標準ブラウン運動

単位時間あたりの変化量が標準正規分布に従う連続時間確率過程(値が飛んだり、ジャンプしたりするような不連続性を持たない)モデルになります。

  • 式2-1:初期値が0になる
  • 式2-2:平均が0, 分散に単位時間を持つ正規分布に従う
    ⇨ 単位時間が1の時は標準正規分布に従う
  • 式2-3:定常増分性を持つ
    ⇨ 単位時間が同じ区間の変化量は同じ正規分布に従う
  • 式2-4:独立増分性を持つ
    ⇨ 重ならない区間同士の変化量は完全に独立である

式2

\begin{align}
& B_0 = 0 & (1) \\
& B_t \sim N(0, t) & (2) \\
& B_b – B_a = N(0, b-a) & (3) \\
& B_b – B_a \mathop{\perp\!\!\!\!\perp} B_d – B_c & (4) \\
\end{align}

各記号は右記の条件を持つ(\(0 \leq t, 0 \leq a \leq b \leq c \leq d\))

正規分布の性質

確率変数Xが正規分布\(N(\mu, t)\)に従う時、関数は以下の通り表すことができます。なお、解説が紛らわしくなるため、ここでは分散を\(\sigma^2\)の代わりに\(t\)と表記します。

  • 式3-1:線形性を持つ
  • 式3-2:再生性を持つ

式3

\begin{align}
& X \sim N(\mu, t) \\
& aX+b \sim N(a\mu+b, a^2t) & (1) \\
& X_1+X_2 \sim N(\mu_1+\mu_2, t_1+t_2) & (2) \\
\end{align}

式の変形

式2, 3を用いて、\(x_t(=\sigma B_t + x_0)\)が従う正規分布を求めます。

式4

\begin{align}
& x_t = \sigma B_t + x_0 \\
& \sigma B_t + x_0 \sim N(x_0, \sigma^2t) \longleftarrow B_t \sim N(0, t) \\
\end{align}

式4を用いて、式1に含まれる\(x_k-x_{k-1}\)が従う正規分布を求めます。

式5

\begin{align}
x_k-x_{k-1} &\sim N(x_0-x_0, \sigma^2k-\sigma^2(k-1)) \\
&\sim N(0, \sigma^2) \\
\end{align}

標準偏差の計算

式5より(\(x_1-x_0\))から(\(x_{100}-x_{99}\))までの100区間の変化量が\(N(0, \sigma^2)\)に従うことが分かりました。分散の推定量\(\tilde{\sigma}^2\)は各区間の増分の二乗の平均で求めることができます。

この計算式は問題文で与えられた式1と一致します。

式1(再掲)

\begin{align}
V=\frac{1}{100} \sum_{k=1}^{100}(x_k-x_{k-1})^2=0.001224
\end{align}

ここから推定量\(\tilde{\sigma}\)を計算します。

式6

\begin{align}
\tilde{\sigma} = \sqrt{0.001224} = 0.035\\
\end{align}

したがって、\(\sigma\)の推定量は0.035(選択肢②)になります。

問題9-2

問題9-1と同じ期間を設けて、再び1米ドルに対応する日本円の為替額の調査を行った。今回の調査では、観測頻度を前回の10倍に増やしている。\(x_{0.1k}\)の増分の二乗の平均が以下の式に従う時、\(\sigma\)の推定値を答えよ。なお、確率過程モデルは問題9-1と同じものとする。

式7

\begin{align}
V=\frac{1}{1000} \sum_{k=1}^{1000}(x_{0.1k}-x_{0.1(k-1)})^2=0.000595
\end{align}

選択肢
① 0.0077 ② 0.024 ③ 0.077 ④ 0.24 ⑤ 0.77

答え ③ 0.077

解説

式の変形

問題9-1と同様に、\(x_{0.1k}-x_{0.1(k-1)}\)が従う正規分布を求めます。

式8

\begin{align}
&x_{0.1k} \sim N(x_0, 0.1k\sigma^2) \\
&x_{0.1k}-x_{0.1(k-1)} \sim N(0, 0.1\sigma^2) \\
\end{align}

標準偏差の計算

(\(x_{0.1}-x_0\))から(\(x_{100}-x_{99.9}\))までの1000区間の変化量が\(N(0, 0.1\sigma^2)\)に従い、分散\(0.1\sigma^2\)の推定量は式7の計算式と一致します。

ここから推定量\(\tilde{\sigma}\)を計算します。

式9

\begin{align}
&0.1\sigma^2 = 0.000595 \\
&\tilde{\sigma} = \sqrt{0.000595 * 10} = 0.077 \\
\end{align}

したがって、\(\sigma\)の推定量は0.077(選択肢③)になります。

問題9-3

1米ドルに対応する日本円\(x_t\)とユーロ\(y_t\)の為替額が式10に従う。ただし、\(B_t^{(1)}, B_t^{(2)}, B_t^{(3)}\)はそれぞれ独立な標準ブラウン運動、\(x_0, y_0, \sigma_1, \sigma_2\)は0よりも大きい定数、\(\rho\)は0以上1以下の定数を表す。\(x_{0.1k}, y_{0.1k}\)の増分の二乗の平均と積和の平均が式11に従う時、\(\rho\)の推定値を答えよ。なお、時刻と確率過程モデルは問題9-2と同じものとする。

式10

\begin{align}
x_t=x_0+\sigma_1\sqrt{\rho}B_t^{(1)}+\sigma_1\sqrt{1-\rho}B_t^{(2)} \\
y_t=y_0+\sigma_2\sqrt{\rho}B_t^{(1)}+\sigma_2\sqrt{1-\rho}B_t^{(3)} \\
\end{align}

式11

\begin{align}
V_1&=\frac{1}{1000}\sum_{k=1}^{1000}(x_{0.1k}-x_{0.1(k-1)})^2=0.000595 &(1) \\
V_2&=\frac{1}{1000}\sum_{k=1}^{1000}(y_{0.1k}-y_{0.1(k-1)})^2=0.001008 &(2)\\
V_{1,2}&=\frac{1}{1000}\sum_{k=1}^{1000}(x_{0.1k}-x_{0.1(k-1)})(y_{0.1k}-y_{0.1(k-1)})=0.000292 &(3)\\
\end{align}

選択肢
① 0.12 ② 0.25 ③ 0.38 ④ 0.51 ⑤ 0.64

答え ③ 0.38

解説

確率変数が従う正規分布

式10に登場する\(x_t\)の各項が従う正規分布を求めます。

式12

\begin{align}
&x_0 \sim N(x_0, 0) \\
&\sigma_1\sqrt{\rho}B_t^{(1)} \sim N(0, \sigma_1^2\rho t) \\
&\sigma_1\sqrt{1-\rho}B_t^{(2)} \sim N(0, \sigma_1^2(1-\rho)t) \\
\end{align}

次に線形性を利用して\(x_{0.1k}\)が従う正規分布の母数を求めます。

式13

\begin{align}
E[x_{0.1k}] &= E[x_0+\sigma_1\sqrt{\rho}B_{0.1k}^{(1)}+\sigma_1\sqrt{1-\rho}B_{0.1k}^{(2)}] \\
&= E[x_0]+E[\sigma_1\sqrt{\rho}B_{0.1k}^{(1)}]+E[\sigma_1\sqrt{1-\rho}B_{0.1k}^{(2)}] \\
&= x_0 + 0 + 0 \\
&= x_0 \\
\\
V[x_{0.1k}] &= V[x_0+\sigma_1\sqrt{\rho}B_{0.1k}^{(1)}+\sigma_1\sqrt{1-\rho}B_{0.1k}^{(2)}] \\
&= V[x_0]+V[\sigma_1\sqrt{\rho}B_{0.1k}^{(1)}]+V[\sigma_1\sqrt{1-\rho}B_{0.1k}^{(2)}] \\
&= 0+\sigma_1^2\rho \cdot 0.1k+\sigma_1^2(1-\rho) \cdot 0.1k \\
&= 0.1k\sigma_1^2 \\
\end{align}

ここから(\(x_{0.1k}\))と(\(x_{0.1k}-x_{0.1(k-1)}\))が従う正規分布は以下の通りです。

式14

\begin{align}
&x_{0.1k} \sim N(x_0, 0.1k\sigma_1^2) \\
&x_{0.1k}-x_{0.1(k-1)} \sim N(0, 0.1\sigma_1^2) \\
\end{align}

標準偏差の計算

(\(x_{0.1}-x_0\))から(\(x_{100}-x_{99.9}\))までの1000区間の変化量が\(N(0, 0.1\sigma_1^2)\)に従い、分散\(0.1\sigma_1^2\)の推定量は式11-1の計算式と一致します。

同様に、(\(y_{0.1}-y_0\))から(\(y_{100}-y_{99.9}\))までの1000区間の変化量の分散\(0.1\sigma_2^2\)の推定量は式11-2の計算式と一致します。

ここから推定量\(\sigma_1, \sigma_2\)を求めます。

式15

\begin{align}
&0.1\sigma_1^2 = 0.000595 \\
&\sigma_1 = \sqrt{0.000595 * 10} = 0.077 \\
\\
&0.1\sigma_2^2 = 0.001008 \\
&\sigma_2 = \sqrt{0.001008 * 10} = 0.100 \\
\end{align}

共分散の計算

次に、共分散\((x_{0.1k}-x_{0.1(k-1)})(y_{0.1k}-y_{0.1(k-1)})\)を求めるために各項を変形した後、共分散を求めます。

式16

\begin{align}
x_{0.1k}-x_{0.1(k-1)} &= x_{0.1} – x_0 \\
&= x_0+\sigma_1\sqrt{\rho}B_{0.1}^{(1)}+\sigma_1\sqrt{1-\rho}B_{0.1}^{(2)}-x_0 \\
&= \sigma_1\sqrt{\rho}B_{0.1}^{(1)}+\sigma_1\sqrt{1-\rho}B_{0.1}^{(2)} \\
\\
y_{0.1k}-y_{0.1(k-1)} &= y_{0.1} – y_0 \\
&= y_0+\sigma_2\sqrt{\rho}B_{0.1}^{(1)}+\sigma_2\sqrt{1-\rho}B_{0.1}^{(3)}-y_0 \\
&= \sigma_2\sqrt{\rho}B_{0.1}^{(1)}+\sigma_2\sqrt{1-\rho}B_{0.1}^{(3)} \\
\end{align}

式17

\begin{align}
Cov &= \sqrt{(x_{0.1}-x_0)(y_{0.1}-y_0)} \\
&= \sqrt{\left(\sigma_1\sqrt{\rho}B_{0.1}^{(1)}+\sigma_1\sqrt{1-\rho}B_{0.1}^{(2)}\right)\left(\sigma_2\sqrt{\rho}B_{0.1}^{(1)}+\sigma_2\sqrt{1-\rho}B_{0.1}^{(3)}\right)} \\
&= \sqrt{\sigma_1\sigma_2\rho B_{0.1}^{(1)}B_{0.1}^{(1)}+…B_{0.1}^{(1)}B_{0.1}^{(3)}+…B_{0.1}^{(2)}B_{0.1}^{(1)}+…B_{0.1}^{(2)}B_{0.1}^{(3)}} \\
&= \sqrt{\sigma_1\sigma_2\rho B_{0.1}^{(1)}B_{0.1}^{(1)}+0+0+0} \\
&= \sqrt{\sigma_1\sigma_2\rho}B_{0.1}^{(1)} \\
\end{align}

計算式の途中でブラウン運動同士の計算が発生しました。問題文より各ブラウン運動は独立であると示されているため、同一のブラウン運動では期待値が1、異なるブラウン運動では無相関で期待値が0になります。

計算の結果より、共分散は以下の正規分布に従うことが分かります。

式18

\begin{align}
\sqrt{(x_{0.1}-x_0)(y_{0.1}-y_0)} = \sqrt{\sigma_1\sigma_2\rho}B_{0.1}^{(1)} \sim N(0,0.1\sigma_1\sigma_2\rho) \\
\end{align}

また、共分散\(0.1\sigma_1\sigma_2\rho\)の推定値は式11-3と一致するため、ここから推定量を求めます。

式19

\begin{align}
0.1\sigma_1\sigma_2\rho &= 0.000292 \\
\sigma_1\sigma_2\rho &= 0.000292 * 10 = 0.00292 \\
\end{align}

相関係数の計算

式15(\(\sigma_1, \sigma_2\)の推定値)と式19(\(\sigma_1\sigma_2\rho\)の推定値)を用いて、\(\rho\)の推定値を求めます。

式20

\begin{align}
\rho&=\frac{0.00292}{\sigma_1\sigma_2}=\frac{0.00292}{0.077*0.100}=0.379
\end{align}

したがって、\(\rho\)の推定値は0.38(選択肢③)になります。

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