【解説】統計検定準1級 2019年問題5

諸注意

  • 問題本文は公式サイトまたは公式問題集を参照してください
  • 統計検定2級に合格している方を想定して解説していきます

問題5

心筋梗塞と喫煙の関係を調べるため、心筋梗塞を起こした86名の患者に対して喫煙歴の調査を行った。次に、心筋梗塞患者ではない258名をコントロール群に選び、同様の調査を行った。次の表は調査結果をまとめたものである。この調査から言える最も適切な事柄を選択肢の中から選べ。

心筋梗塞患者コントロール群合計
喫煙歴あり6566131
喫煙歴なし21192213
合計86258344

選択肢
解説参照

答え 選択肢 ①

解説

前提知識

対照実験とは、とある行動により症状が発生するリスクを求めるために処置群とコントロール群を用意して比較する実験のことを指します。

処置群Tコントロール群C合計
行動A\(T_A\)\(C_A\)
行動B\(T_B\)\(C_B\)
合計

リスクは全体に占める発症数(処置群の割合)から求めることができます。また、行動Aと行動Bのリスクを比較することで行動Aがリスクを起こす割合(相対リスク)を求めることができます。

式1(相対リスク)

\begin{align}
& \frac{T_A}{(T_A + C_A)} \div \frac{T_B}{(T_B + C_B)} \\
\end{align}

ただし、相対リスクを計算する時は必ず処置群とコントロール群の割合が母集団と一致している必要があります。そのため、無作為抽出(前向き調査)ではリスクを素直に求めることができますが、作為抽出(後ろ向き調査)ではリスクを求めることができません。

これに対して、同じ群内であれば行動Aと行動Bの割合(オッズ)は母集団の割合と一致します。また、各群のオッズは母集団と一致するため、オッズ同士を比較した値(オッズ比)も母集団と一致します。

式2(オッズ比)

\begin{align}
& \frac{T_A}{T_B} \div \frac{C_A}{C_B} \\
\end{align}

この時、処置群Tの値がコントロール群Cの値よりも十分に小さい時、オッズ比は相対リスクと近似することが分かります。

式3(オッズ比と相対リスク)

\begin{align}
\frac{T_A}{T_B} \div \frac{C_A}{C_B} &= \frac{T_A}{(T_A + C_A)} \div \frac{T_B}{(T_B + C_B)} \\
\\
\frac{T_AC_B}{T_BC_A} &= \frac{T_A(T_B + C_B)}{T_B(T_A + C_A)} \\
\\
\frac{T_AC_B}{T_BC_A} &= \frac{T_AC_B}{T_BC_A} \longleftarrow (T_A, T_B) << (C_A, C_B) \\
\end{align}

選択肢と解説

  1. 心筋梗塞患者に関する喫煙歴ありのオッズ(65/21 = 3.10)は、コントロール群に関する喫煙歴ありのオッズ(66/192 = 0.344)の約9倍である。心筋梗塞の患者率は小さい値であると知られているので、喫煙歴がある場合とない場合のそれぞれに対する心筋梗塞の患者率の比(相対リスク)は、およそ9であると推定できる。

    正解(発症率が低い事例では、オッズ比と相対リスクの値は近似します)
     
  2. 心筋梗塞患者に関する喫煙歴ありのオッズ(65/21 = 3.10)は、コントロール群に関する喫煙歴ありのオッズ(66/192 = 0.344)の約9倍である。コントロール群として3倍の人数を選んでいるため、喫煙歴がある場合とない場合のそれぞれに対する心筋梗塞の患者率の比(相対リスク)は、およそ3であると推定できる。

    ⇨ 発症率が低い事例では、オッズ比と相対リスクの値は近似します。そのため、コントロール群との人数比に対して調整は不要です。
     
  3. 喫煙歴のある患者に関する心筋梗塞患者の割合は 65/131 = 0.496 であり、喫煙歴のない患者に関する心筋梗塞患者の割合は 21/213 = 0.0986 である。これらはそれぞれ、喫煙歴がある場合とない場合のそれぞれに対して、心筋梗塞の罹患率の妥当な推定値である。

    ⇨ 喫煙者の2人に1人(49.6%)が心筋梗塞患者であると説明していますが、現実の心筋梗塞の罹患率とはかけ離れています。なお、ケースコントロール研究(後ろ向き調査)では誤りの説明ですが、前向き調査の場合は正解になります。
     
  4. 喫煙歴のある患者に関する心筋梗塞患者の割合は 65/131 = 0.496 であり、喫煙歴のない患者に関する心筋梗塞患者の割合は 21/213 = 0.0986 であり、この差はおよそ0.40である。このことから、喫煙歴があると、喫煙歴がない場合に比べて、心筋梗塞の罹患率が40%増えると推定できる。

    ⇨ 選択肢③と同様、現実の心筋梗塞の罹患率とかけ離れているため、誤りです。
     
  5. この調査では、調査対象の4分の1は心筋梗塞患者となる。これは、実際の心筋梗塞の罹患率とはかけ離れた値であるから、この調査から読み取れるものはない。

    ⇨ 発症率が低い事例では、オッズ比は相対リスクの近似値を取ります。

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